大掛かりにレストアされ実動する米軍のM3ハーフトラックがある。そんな情報を得て向かったのは群馬県藤岡市。そこで見たものは複数のミリタリーヴィークル、そしてヴィンテージアイテムが詰め込まれた、とんでもなくワクワクする空間だった。
9月初旬、僕はミリタリーヴィークルのスペシャリスト、オートジャンクション代表の安井一郎さんとともに関越自動車道を北に向かっていた。安井さんはこれから訪ねる“塚田さん”について話してくれた。「ボロボロだった大戦中のM3ハーフトラックをバラバラにして装甲をアルミで作り直し、見事にレストアした人です。オンザロードマガジンの話しをしたらいつでも取材しにきてくださいって言ってくれました。」常に面白い話題を提供してくれる安井さんの紹介ゆえ、きっと楽しい出会いなるはずだと確信しながら、僕は藤岡インターを降りた。
“建築関係の会社”だと聞いていたその場所は、一見して古びた洋館であり、雑貨店のようであり、鉄工所の風情も漂う不思議な場所。無造作に停められたミリタリーヴィークルたちも存在感抜群だ。僕たちを笑顔で迎え入れてくれた塚田恭平さんは、想像と違い、いかにも温厚そうな人物。挨拶もそこそこに「まずはこの中をご案内しましょう。」と建物の2階に案内してくれた。そこはデザインコンクリートで仕上げた壁面に、鉄と木材で作られた家具や装飾品、そして本格的なアメリカン・ビンテージ雑貨や模造銃などが大量に飾られ、さながらテーマパークのよう。しかもそんな部屋が、リビング、書斎、バー、アンティークショップといった具合にコンセプトを変えながらいくつもある。塚田さんの本業は特注の鉄製品製作と造形モルタルや特殊塗装(=デザインコンクリート)の技術をベースにした建物の外構や内装の設計・施工。趣味であるミリタリーヴィークルのコレクションや、そこから得られた知識が事業と絶妙にオーバーラップしているのが面白い。「看板屋に勤めながら、ディズニーランドやユニバーサルスタジオで見た装飾施工技術に興味をもち、独立して我流ではじめたのが原点です。子供の頃1/35や1/48スケールの戦車などに夢中で、本物のジープには21歳から乗っていました。今の仕事は1/1スケールのジオラマを作っているようなところがありますね。」と笑う塚田さん。
噂に聞いたハーフトラックを含む、貴重なミリタリーヴィークルのコレクションは近隣の倉庫に保管されていた。片隅に置かれた、発泡スチロールをベースに精巧に作られた石造りの壁やレンガブロック、ヨーロッパの看板などは、あの『ワンフェス』出展の際に使用したという。「海洋堂さんとのコラボで、会場にジープなどを持ち込み原寸大ジオラマを作りました。たくさんのコスプレイヤーがその前で撮影して楽しんでいましたよ。」
塚田さん今思い描いている夢、それは『ミリタリーランド』を作ることだという。「気軽にミリタリーヴィークルに触れられる場所が作りたいのです。持っているモノや技術を生かし、貴重な文化遺産を未来に受け継いでいきたい。」“普通”に考えると、そのスケールも発想も規格外かもしれないが、塚田さんが歩んできた道を考えると、その夢の実現は難しくないように思えるから不思議だ。「博物館ではなく、ジープを見ながらコーヒーが飲めたりする。『塹壕カフェ』とかでも面白い。どこかいい場所を見つけるところからですね。」と楽しそうに話す塚田さんを前に、安井さんと僕も笑顔になっていた。
取材協力:株式会社 K・Tアーツ(藤岡 Factory/群馬県藤岡市中150-1/0274-25-9989/www.ktarts.jp)
K・Tアーツの2階は、自社の技術と代表である塚田さんの知識を存分に発揮して作り上げられた、ヴィンテージのテーマパーク。
ボロボロの状態で手に入れ、金属加工技術を駆使、装甲板をアルミに置き換えて蘇らせたアメリカ軍のM3ハーフトラック。キャタピラーはリプロ品、エンジンは日産パトロールの4Lガソリンエンジンに換装され、イベントなどで走り回っているという。塚田さんはダッジ・コマンドカーの他、ダッジ・ウェポンキャリア、フォードGPWなど複数のミリタリーヴィークルを所有している。日常のアシは、三菱J3がベースのウイリスジープ・レプリカ。マニアにも判別がつかないほど精巧な仕上がり。
ワンフェスにも持ち込んだ手作りの看板と石壁。リアルでありながら、簡単に持ち運び展示ができる。ブロックのガレキも持ってみると超軽量で驚く。工場の片隅でバイクのホイールをベースに製作されているのは戦車の車輪か?取材中、オートジャンクション代表の安井さんとミリタリー談義に花が咲いていた。
photo&text: GaoNishikawa/取材協力: オートジャンクション(03-5398-1649/www.autojunction.co.jp)