ライダーの物語りを紡ぎ続ける。武田宗徳 Making of "Rider's Story"

“Rider’s Story”という名前のフリーペーパーを初めて手に取ったのは10年以上前。静岡県・牧之原にあるバイクショップ『ウインドソックス』の店主が紹介してくれたのだ。コピー用紙をホチキスで綴じた小さな冊子からは手作りの温もりが感じられた。

静岡のバイク乗りが一人で執筆・製本・配本しているというその冊子、“Rider’s Story”(ライダーズストーリー)を開く。魅力的な登場人物と、ライダーでなければ表現し得ないリアルな描写に引き込まれた。後日出会った作者の武田宗徳さんは、丁寧な文体そのままの朴訥とした、そして温厚な人物だった。WEB全盛の時代になぜフリーペーパーなのか?との質問に対して、彼は迷わず「本が好きなんです。」と答えた。共感の思いがあって、何度かオンザロードマガジンにも寄稿してもらった。その後もお互いの冊子を送りあったりと、細くではあるが僕たちの関係は続いていた。書籍として発売されたライダーズストーリー3冊も拝読、着実なステップアップの様子を垣間みていた。

久しぶりに交わしたメッセージがきっかけでゆっくり話しが聞きたいと思った僕は、静岡県藤枝市に武田さんを訪ねた。
幼少時代は絵本を、少年になると漫画を描いていたという武田さんだが、バイクに特別な思いはなかったという。大学生の頃、雑誌の中の一台のバイクとの出会いが、ライダーになるきっかけだった。
「カウルのないヴィンテージな雰囲気のそのバイクに、無性に乗ってみたくなったのです。」そして手に入れたのはカワサキの250cc『エストレア』。就職、結婚、子育てなど人生を過ごしながら、常に傍らにはバイクがあった。夜の時間や休日に、バイクがテーマの小説を書くようになった。投稿した物語が愛読していたバイク雑誌に載ったことが嬉しくて、投稿を続けた。しばらくコンスタントに掲載されていたが、編集者が代わり編集方針が変わって、発表の場がなくなった。
そんな時「フリーペーパーを作ってみたら?」と提案したのは、自ら洋服のブランドを立ち上げた経験をもつ奥様だった。
「引っ込み思案な僕には考えつかないアイデアでした。」こうして生まれたのがライダーズストーリーだ。
「バイクに関する描写は僕の体験が元になっていますが、ドラマの部分は僕の空想・妄想です。」と笑う。等身大、普通の登場人物が多いのは、自分の体験がベースだから。それによって、読む人が感情移入しやすくなっているのだ。伝えたいのはバイクに乗ることの魅力だという。

「雨が降れば濡れて、夏暑く冬は寒い。とても不便な乗り物なのに乗る人がいるのは、特別な魅力があるからだと思うのです。僕自身『バイクの魅力はこれだ!』という答えをもっているわけじゃない。ストーリーを読んで『そうそう!』と共感してもらえ、乗らない人には興味をもつきっかけになる、そんな存在でありたいのです。」
だから、『ライダーズストーリーを読んでみて本が好きになった』、『生きる希望が湧いた』、『もう一度バイクに乗りたいと思った』といった、読者からの反響が嬉しいという。
「その輪を大きくしたい。自分にできることの中で、一番人に喜んでもらえるのが小説を書くことだと思っています。」好きで書きはじめて15年。今は、これこそが自分がやるべきことだと思えるようになった。WEBで充分だという声もあるが、手に取れる本に対するこだわりがある。
「ある時、バイクに乗る女優の望月ミキさんに小説を朗読してもらう機会があり、自分の小説を客観的に耳で聴くことができたのです。新たな発見がありましたね。」これも出版を続けていたからこその出会いなのだ。

やれることはどんどんやりたいと考えている武田さんは、17年に『オートバイブックス』として出版コードを取得、刊行物を自ら書店の流通にのせられるようにした。バイクにまつわるものを中心にした趣味の書籍や雑誌をコレクション、それらをネット書店として販売もしている。
https://autobikebook.thebase.in/
「ライダーズストーリーを英訳して、海外のバイク乗りに読んでもらいたいという夢もあります。他にも小説をベースにいろいろなチャレンジをしていこうと思っています。せっかくやるのなら、楽しくないと意味がないじゃないですか。」武田さんの壮大なストーリーはまだまだ“ON THE ROAD”=旅の途中なのである。

上の写真は、昨年手に入れたランドクルーザーで、クルマを操ることの面白さも知ったという武田さん。筆者としてはバイクに加え、クルマに乗ることをテーマにしたストーリーが生みだされることにも期待したい。

武田宗徳
1974年生まれ。自動車・バイク部品メーカー勤務の傍ら、こよなく愛するバイクを題材にした自作の短編小説をバイク雑誌に寄稿。これが誌面に掲載されたことを契機に本格的に創作活動を開始。’02年よりバイク短編小説のフリーペーパー「Rider's Story」を制作・配布。’08年に書籍「Rider's Story」を、’11年には「Rider's Story2」を出版。’17年には「オートバイブックス」として出版コードを取得。自身の作品「君のいない青春」を出版。他に自著も販売するWEB書店「オートバイブックス」をオープン。クリエーターの奥様、ヤンチャ盛りの二人の息子さんとともに静岡県を拠点に活躍中。

※2018年秋発行のオンザロードマガジン本誌vol.57に掲載のインタビューを再編集して掲載しました。

photo: 武田宗徳/Gao Nishikawa
text: Gao Nishikawa

Related article

関連記事