数年前、神奈川に『湘南ベース』なるガレージ付きのアメリカンな賃貸住宅群ができたと耳にした。以降もユニークな賃貸物件を次々に手がけている仕掛人、菊地芳男さんを訪ね、その湧き出るアイデアの源を探ってみた。
2011年初頭、茅ヶ崎に建つアメリカの輸入住宅を見て、家づくり、そして風景をつくることに興味を惹かれた。直後に発生した東日本大震災も菊地さんの人生の転機になる。被災地支援のため現地を訪れ、その様子を目の当たりにして『衣・食・住』の大切さ、そして『住まいは希望である』ということを痛感。『家を建てることを仕事にしたい!』と思いたち、地元寒川で父上が所有する農地にアパートを建てるプロジェクトを立ち上げた。
「やるなら、普通のアパートではなく、『自分が住みたい街』をつくろうと考えました。そして出来上がったのが、ガレージが主役の集合住宅『湘南ベース』だったです。」
上の写真が、菊地さんが手がけたはじめての物件にして代表作の『湘南ベース』。主役と言えるガレージに、色違いのルート66ガレージドアをセットした5世帯の賃貸住宅。共用のドライブウェイには空母ジョージ・ワシントンにちなむ巨大な73の文字が描かれる。
「これは空母の甲板を再現したものです。ここから大空に飛び立つように毎日がスタートするのです。」と菊地さん。
ドライブウェイを挟んで向かいには、ガレージをもたない集合住宅が建つが、こちらにも色とりどりの看板が描かれ、ハリウッド映画のセットのようだった。
寒川町内に今年新たに完成したのが、上の2つのガレージが付いた戸建て賃貸住宅。贅沢な空間をもつ2つのガレージ、欧風の外観の他、インテリアにも菊地さんならではのアイデアが。ドライブウェイに停まっているのはベルギー王妃の愛車だったというオールズモビル・カスタムクルーザー・ワゴン。
「僕が建物を建てる時、まずクルマとともにある風景をイメージしています。湘南ベースを建てるときは、60年代アメリカのピックアップを手に入れた。新しい物件は『カリオストロの城』をイメージして、フィアット500やシトロエン2CV、410ブルーバードを置いてみたりしながら建てました。このベルギー王妃のために作られたオールズモビルもよく似合うでしょ?」と笑う。
菊地さんは自らの会社を『Miss Direction=間違った方向』と名付けた。
「つねに常識を否定して生きていく、という意味を込めた名前です。これからも『自分が住みたい場所』をコンセプトに作品づくりをする感覚で住宅を、街を、風景をつくっていきたいですね。」
こちらは『湘南ベース』。千葉の『ガレージワン』がアメリカから直輸入しているドーム型ガレージが目をひく。
その日の気分や出かける場所によってクルマを使い分けるという菊地さん、この日はオールズモビルに乗る。軽自動車も大好きで、カスタムペイントを施したバンや軽トラも複数台所有する。
菊地芳男:神奈川・寒川生まれ。
不動産業をベースに住宅・アパート・ガレージなどをプロデュースする”Miss Direction”代表。
アメリカ車、欧州車から軽自動車まで、国籍問わずのクルマ好きで、特に旧いものに惹かれるという。
「賃貸住宅ですが自分好みの、住みたい家を作っています。だから貸すのがイヤになっちゃうんですよ。」
と笑う。
画像上:ヨーロッパをテーマに仕立てた寒川のガレージに収まるのはBMW2002。
画像下:
BMW2002の奥には、我らが”RoadTrip63”ブランドのアメリカンストレージボックスが2台置かれている。ストレージボックスの扉として取り付けたアメリカンフェンスを利用して、ワークスペースとの間仕切りにしている。
ガレージに隣接するスペースには広く長いバーカウンターが。「愛車を眺めながら仲間とくつろげる場所にしたかったから」とガレージとの境界に大きな開口の窓を設置した。
その隣のもう一つガレージの内部。現在はバイクの他、菊地さんの好みでソファーなどの家具が置かれ、土間風リビングに。
photo&text: Gao Nishikawa