かつてプラモデル少年の間で一世を風靡した1/35ミリタリーミニチュア・シリーズ（以下MM）。
そのヒットの要因として、ジオラマ＝情景模型の存在がある。
歴史上の出来事をベースに、戦車やジープ、フィギュア、などを使って再現した小宇宙。
優秀作は模型屋の店頭に飾られ、メーカー発行の印刷物に掲載され、コンテストもあった。
ここにご紹介するのは、かつてはMMのトップモデラーの一人。
今は机上に『旧き佳きアメリカ』を再現するミニチュアモデル・アーティストの奥川泰弘さん。


「MMが大ブームだった頃はろくに色も塗らないで作った戦車を、爆竹で吹き飛ばしたり、普通の子供でしたよ（笑）。中学の頃、"コンバット!"や"刑事スタスキー＆ハッチ"、"白バイ野郎ジョン＆パンチ"などドラマの中のアメリカに憧れるようになりました。」
高校時代は、雑誌『ポパイ』や片岡義男の小説を読み、アメリカをテーマにしたマンガや、架空の広告などをノートに描いて楽しんでいたという。
その後デザインの道に進み、広告業界へ。
仕事の忙しさから逃れるように、ジオラマの製作を再開。
モデラーとしての本格的な活動はこのあたりからだという。
有名モデラーの作品を研究、試行錯誤の末、その作品が評価されるようになる。
国内はもちろん、海外のコンテストでも表彰されるほどの腕前になりながらもMMから離れたのは、戦争という史実がベースになっているからだと言う。
「実はマニアの目が厳しくて…。その時代のこの戦車はこうじゃない！などと言われるのが息苦しかったんです。」
その後、憧れのワンシーンを再現する気持ちではじめたのが、アメリカの情景模型づくりだった。
汚れて錆びて、ちょっと凹んだクルマや日射しに灼かれた看板にウッドフェンスといった生活感のある風景を作る。
もちろんMMで培ったテクニックがいかんなく発揮され、デザイナー時代のスキルは架空の看板づくりに生かされた。
壁のポスターや何気なく置かれた雑誌もデジタルの力を借りて製作、プリントして切り抜き汚しを加えれば、素晴らしいスパイスになる。

「何よりも時代考証に縛られない自由があり、より幅広い層の人たちに楽しんでもらえるのが嬉しいですね。次はどんな仕掛けで見る人を笑顔にしようかと考えながら作るのが楽しいのです。」
写真からも伝わるように、誰もがため息を漏らす素晴らしい作品を生み出している奥川さんだが、「僕より技術のある人はたくさんいます。」と至って謙虚だ。
しかし、一点一点、膨大な時間をかけて生み出しているその作品は、奥川さんのこれまでの経験なくしては完成しない、まさにアート作品。
「最終的に仕上がったモノのセンスがウリかな。デザインと同じで、レイアウト、色合い、構成力などが仕上がりを左右します。その部分では他の人に負けたくないですね。」
目の前で仕上げてくれた作品を満足そうに眺めながら、「10年経っても色あせない作品を作っていきたいですね。」と奥川さんは笑顔で語ってくれた。

TAMIYAのミリタリーミニチュア（MM）との出会いが奥川さんの作品づくりの原点。

プラモ好きのバイブル、TAMIYA NEWSに何度も紹介されるほどの、MMのトップモデラーだった。

ホンモノのCHPのポリスカーを所有していたほど、アメリカ車好き、ドラマ・映画好き。

写真や手描きの図面などを用意、シーンに必要なパーツを手作りしてゆく。

プラモデルを組み立て、必要に応じて改造、エイジング塗装を施し、筆と綿棒を使って錆やホコリ再現。

デザイナーとしても活躍していた奥川さんゆえ、架空の看板デザインもお手のものだ。

飾りやすくて、買い求めやすい作品を、という思いから生まれたのがこの『3Dウォールアート』。
平面のイラストのようにも見えるが、レンガの壁、ドアや窓、雨樋やランプなど、すべてジオラマと同じ手法で手作りしている。

奥川泰弘・Yasuhiro Okugawa
ミニチュアモデル・アーティスト
1964年横浜生まれ。
父上の影響で模型づくりをはじめる。
デザイナーなどを経て情景模型専門のミニチュアモデル・アーティストに。
国内外のコンテストで受賞多数。
自身のブランド"Doozy Modelworks"から、オリジナルの情景模型用のアクセサリーや雑貨をリリース。