現在劇場公開中の『ファウンダー/ハンバーガー帝国のヒミツ』を見た。あの『マクドナルド』をローカルな街のハンバーガーショップから、アメリカが誇る世界一の外食産業に育て上げた実在の人物、レイ・クロックが主役の物語として、すでに各メディアで紹介されているので、ご存知の方も多いだろう。ここでは、内容についてはあえて詳しく触れないかわりに、オンザロードマガジン的な切り口で、この映画にまつわる2つのお話をしよう。
ひとつはもちろん、この映画の舞台となるクルマとアメリカの風景。物語がはじまるのは1954年。忠実に再現された当時の光景が何とも素敵なのである。ミルクシェーク・マシンのセールスマンとして登場する主人公、レイ・クロックは地元イリノイからルート66をロードトリップ、マクドナルドの創始者であるマック・マクドナルドとディック・マクドナルド兄弟を訪ねる。路傍の風景、すなわち街並や道行く人々のファッション、店の看板やロードサインまで、とても丁寧に作り込まれているのがよくわかる。特に、ロゴのモチーフにもなった『ゴールデンアーチ』を冠した初期のマクドナルドの店舗や、その他のドライブイン、ダイナーのシーンは、メニュー、ユニフォームや包み紙に至るまで、抜かりがない。
レイがセールスのアシとして全米を走り回る愛車は、くすんだライトブルーのボディーにホワイトのルーフをもつ1953年型プリマス・クランブルック・ベルベディア。マクドナルド兄弟が乗るのは1949年のデ・ソート・カスタム。他にも、よくこれだけランニングコンディションのクルマが用意できたものだ、とあきれるほど、たくさんの当時のクルマたちが画面を彩る。クルマ好きならずとも「きっと当時のアメリカって、こんなふうだったんだろうな~」とノスタルジックな気分になる物語なのである。
そしてもうひとつ、それは主演のマイケル・キートンについて。『バットマン』をはじめ、メジャーな作品にも多く登場している著名なハリウッドスターであるが、ここでは、クルマが主役と言える映画で重要な役所として出演していることに注目したい。
2005年の『ハービー/機械じかけのキューピッド』(Herbie Fully Loaded)は、自らの意志を持ったフォルクスワーゲン・ビートルが活躍する作品。NASCARドライバーを夢見る主人公(リンジー・ローハン)の父にして、NASCAR・ネクステルカップ(現モンスターエナジー・NASCARカップ)のチームオーナー、レイ・ペイトン・シニアを演じる。新しいところでは、2014年の『ニード・フォース・ピード』で、公道を使ったスーパーカーによる違法レース『デレオン』を主催する謎の人物、モナークを怪演している。
声優の仕事もしており、2006年に公開された『カーズ』には、主人公ライトニング・マックイーンの宿敵、チック・ヒックス(80年代のストックカーがモチーフのキャラクター)の声を担当。最新作の『カーズ・クロスロード』でも名物レース解説者、チック・ヒックスとして出演している。
ちなみに、同じディズニー・ピクサー作品の『トイ・ストーリー3』(2010年)では、バービーの恋人、ケンの声を、また宮崎駿アニメ『紅の豚』(2005年)では主人公ポルコ・ロッソの英語版吹き替えを担当しているというのも面白い。
「マクドナルドに、そんな歴史があったのか~」と唸ってしまう、実話をベースにした物語、『ファウンダー/ハンバーガー帝国のヒミツ』。オンザロードマガジン読者にも是非ご覧頂きたい秀作である。
映画『ファウンダー/ハンバーガー帝国のヒミツ』は、角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿、渋谷シネパレスほかにて全国ロードショー中。
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text: Gao Nishikawa
special thanks: 松原好秀(https://ameblo.jp/hamburger-street/)