さまざまなジャンルの雑誌を世に送り出してきたベテラン編集者が、独立して出版社を興してしてまで発行しているのは、薪ストーブの専門誌。そこに至る思いや、愛してやまない薪ストーブの魅力についてお伺いしようと、雑誌『薪ストーブライフ』編集長 中村雅美さんを訪ね、長野に向かった。
雑誌編集のプロとして活躍していた中村雅美さんは、ある日友人の誘いで出かけた長野で、環境の素晴らしさと土地の安さに惹かれ、土地を購入してしまう。
「まったく想定外だったのですが、勢いでそこに別荘を建ててしまいました。97年のことです。その際に憧れだった薪ストーブを導入、それが縁でさまざまな出会いにも恵まれました。」
ネットを介して薪ストーブ愛好家と交流、オフ会仲間のために01年に作りはじめたわずか8ページの会報誌が『薪ストーブライフ』のスタートだった。
「薪ストーブを扱う媒体は既に存在していましたが、それまでの経験を生かし、私なりの思いやこだわりを込めて、面白くてユーザーのためになる本を作ろうというのが発行の主旨です。」
そして50歳を迎えた年、これをさらに極めたいという思いから一念発起、独立して出版社を設立。07年に『薪ストーブライフ』は有料出版物として生まれ変わった。
中村さんが薪をくべる愛用のストーブはアメリカ『ハースストーン』製。鋳鉄のフレームとソープストーンと呼ばれる石盤で作られている。「すべてのコンディションが同じで、20年の経験があっても、うまくいかないことがあります。それも面白いですね。」と笑う。
薪ストーブの伝道師である中村さんに、その魅力について伺うと、いくつもの答えが返ってきた。
「よほど大きな家でなければ一軒全部を効率よく暖めることも可能、洗濯ものがよく乾いてエアコンほど乾燥しないなど、実用的な魅力がまず挙げられます。インドアでアウトドア気分が味わえ、炎を眺めているだけで癒されるというところも薪ストーブならでは。個人的には、薪の準備から点火、メンテナンスまですべてがアナログなところが楽しい。20年やっていても思い通りに燃えてくれないことがある。同じコンディションでも毎回違う炎になる。そのひとつひとつが面白いのです。」
大変なことはたくさんあるけれど、それを楽しむ余裕があれば、人生は豊かになる。そんなメッセージが胸に響いた。
今回お邪魔したのは長野にある中村さんの別荘。憧れの薪ストーブの設置を前提にこれを建てたことからすべてが始まったという。能力が充分に発揮できるよう、ストーブを建物の中央に配するなど、さまざまなノウハウが詰まっている。まさに薪ストーブライフのための家なのである。
日当りのいい別荘の玄関前や南側の外壁に、自らの手で薪棚を設置。割った薪を時間をかけて乾燥させている。
薪の調達は多くのユーザーの関心ごとで、関連情報は雑誌の人気コンテンツなのだそう。中村さんの場合、森林整備活動の手伝いで貰い受けた間伐材を自分で薪にしている。チェーンソーで切り分け、斧で割り、2年ほどをかけて自然乾燥。この手間ひま、使用する道具の魅力、それらのすべてが薪ストーブの魅力をささえているのだという。
薪ストーブのシロウトである筆者の質問にも、温厚な語り口でひとつずつわかり易く解説してくれた中村さん。その姿勢からは、薪ストーブの素晴らしさや楽しみを多くの人と共有したいという思い、そして薪ストーブに対するまっすぐな愛が、ヒシヒシと伝わってきた。
中村雅美
子供向け、看護師向け、クルマなど、さまざまな雑誌で編集者としてのキャリアを積む。フォーバイフォーマガジン社では『オフロードエクスプレス』の編集長も務めた。別荘建築時に導入した薪ストーブに魅せられ、愛好家仲間のために8ページの会報誌を発行。その後独立して沐日社を創業、07年から雑誌『薪ストーブライフ』を発行している。
薪ストーブライフ
導入のノウハウから、薪ストーブの基礎知識、気になるメンテナンスや薪の情報まで、その楽しみ方をユーザー目線で丁寧に紹介する、言わば薪ストーブファンのバイブルなのである。
仕事のベースがある東京と長野間往復のパートナーは、このボルボV40。仕事で薪やストーブ本体などを運ぶこともあり、軽トラックも愛用しているそう。
photo::Kazumasa Yamaoka
text: Gao Nishikawa
special thanks:薪ストーブライフ
沐日社/www.mokuzitusya.jp