レースカーとしては異例とも言える1.5トン超の車重をもつNASCARマシン。それもそのはず、NASCARのレギュレーションでは軽量素材であるチタンやカーボンの使用場所が厳しく制限されており、ほとんどのパーツがスチールとアルミニウム素材で作られているのだ。そんな重量級レースカーをコントロールする為に、ブレーキがとても重要な役割を果たす。今回はNASCARのために専用開発されたブレーキを尾形明紀がご紹介する。
NASCARが開催されるレース場は大きく4種類に分類される。デイトナやタラデガに代表される全長2.5マイル(約4キロ)の『スーパースピードウェイ』、『インターミディエイト』と呼ばれる1.5マイル(2.4キロ)のトラック、1マイル(1.6キロ)以下の『ショートトラック』、そして年間36戦中で2回だけ開催されるテクニカルな『ロードコース』だ。スーパースピードウェイにおけるブレーキの使用頻度は低く、クラッシュなどのハプニングを回避するためと、ピットロード進入の減速時に使用するぐらい。インターミディエイトでは、レーストラックによって頻度は異なるが、ターン進入時にも使用される。NASCARレースでブレーキが最も重要視されるのがショートトラックとロードコースだ。
NASCARの最高峰、スプリントカップでのみ、専用開発されたブレーキキャリパーの使用が可能で、ショートトラックとロードコースではフロントに6ポッド、リアには4ポッドキャリパーが装着される。ちなみにこのキャリパー、一つ7,600ドル、重量はこの大きさで3キロと軽量だ。そしてこのキャリパーに使用するブレーキパッドの厚みはなんと、フロント32mm、リアで22mmもある。 ショートトラックでブレーキに最も過酷なレースだと言われるのが、一周0.5マイル(800メートル)のマーティンスビル。ここでフルブレーキングした時にブレーキローターに生じる温度は800度を越える。ご存知の通り、高温になるとブレーキ能力は落ちるから、ターンを抜け加速して次のターンに入るまでのわずかな間に温度を可能な限り下げる必要がある。その為の強制冷却装置、すなわち冷却ファンを備えた3本のダクト(太いホース)を備え、キャリパー側にも冷風が逃げないような工夫が施されている。これらの対策をもってしても、レースを終える頃には分厚いパッドがなくなってしまうことも。
現在ブレーキ関連パーツをサポートするメーカーとしては、キャリパーでレイベストス、APレーシング、ブレンボなど。パッドではレイベストスの他、PFC、ブレンボ、ミンテックスなどがある。実は過酷なショートトラックでは、日本のプロジェクトμ製のパッドが大半のシェアを持つ。こんな所で日本のテクノロジーが認められていることが誇らしい。
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ブレーキに過酷なショートトラック、ロードコース用のパッドをiPhoneと並べる。厚い方がフロント用だ。
尾形が手にするのがNASCAR用の巨大なキャリパー。フロント用の6ポッドで重さは3キロほど。下の写真のカーボン製プレートがホースから流入する冷風を効率よくブレーキに送り冷却する。
上がレイベストス、下がAPレーシングのキャリパー。下がマシンに装着されたブレーキパーツ一式。赤いホースが冷却ダクト。その中間に装着された白い筒が冷却ファン。
尾形明紀率いるAkinori Performanceは、2014年シーズンもENEOS MOTOR OIL USAをメインスポンサーに迎え、ゼッケン56、トヨタ・カムリでNASCAR K&Nプロシリーズ・イーストに参戦。長年NASCARに携わり、「ドライバーとしての基本はもちろん、チームメンバーとのコミュニケーション能力や精神的な強さをのばしてくれそうな経験豊富なブレーンにも恵まれ、また新たにMOONEYESのサポートも受けられることに。この素晴らしい出会いを生かして、いいリザルトを残したいと思います。」
2014年参戦スケジュール
Apr.25 バージニア州・Richmond Int'l Raceway
Jun.13 フロリダ州・Five Flags Speedway
Jul.11 ニューハンプシャー州・New Hampshire Speedway
Aug.1 アイオワ州・Iowa Speedway
Sep.26 デラウエア州・Dover Int'l Speedway
Akinori Ogata
尾形明紀(おがた・あきのり)
14歳でモトクロスバイクをはじめて以来のレー人生。ミニカーがきっかけでNASCARの世界に、国内のミジェットカーレースを経て03年にNASCAR初参戦。10年には本場ノースカロライナ州に移住、NASCARドライバーとして日々奮闘中。