On The Street Burger 70年代西海岸の光と影  PALMETTO [東京・深沢]

 GAOさんから聞くまで、私は深沢の「PALMETTO(パルメット)」のことを知らなかった。オープンから既に7年になる店だというのに――。

 知らなかったのにはそれなりの理由がある。場所は東急東横線の自由が丘駅から徒歩20分、大井町線の尾山台駅から19分という世田谷の住宅街の奥のまた奥。おまけに「何屋かわからない」「6年経ってやっと入れた」などとよく言われるほどに店構えが地味である。入った店内もなかなかシブい。最初私は、長らく父親が営業していた洋食屋かビストロの跡を息子が継いで、内装はそのままにハンバーガーなど出す今どきな店に商売替えでもしたのかと、そんな想像をしたものだ。そう思わせるくらいの古めかしさと、まだ若い店長に似合わぬ落ち着きがこの店にはある。
 店長・木村真也さんがパルメットを始めたのは2008年。26歳の時。それまで横浜は市が尾の名店「Bubble Over」とその姉妹店「TROUBADOUR」に合わせて約8年勤めていた。バブルオーバーには「アメリカというものを教えられた」と木村さん。サーフィンを知り、ファッションを知り、料理を知り、そして店内で頻繁にやっていたライヴを通じて多大な影響を音楽について受けた。ある種"前時代的"なパルメットのこのちょっと重たく暑い、ずっしりとした落ち着きは、つまりバブルオーバーから受け継いだ70年代西海岸のソレなのだ。低い天井に下がる照明はどれも70年代のもの。黒いファブリックを張ったボックスシートとその横の窓の高さ・幅・配置が絶妙。
 周囲からは「ハンバーガー屋」と呼ばれているが、パルメットはアメリカンレストランである。人気メニューはUSビーフのステーキやミートボールスパゲッティ、ピッツァ。自慢は「このソース売ってもいいんじゃないか」と言われるほどにソースがおいしいBBQポーク。目下売り出し中はベイビーバックリブ、チキンタコス。どのメニューもことごとく量が多い。「こんなに量出す店ない」「こんなに多いと困るんだけど」と言われ続けるも、そこを曲げずに7年間。一番人気はやはりバーガー。店内全5品。上下重ねないオープンスタイルでサーブ。写真はランチ限定のメキシカンチーズバーガー。

 店名は「ルメット」と頭にアクセント。米国南部でよく見るノコギリヤシというヤシの木のこと。フロリダなどに同名の町がある。はるか南部のヤシの木の名を冠し、西海岸の気だるい陰影を帯びた、そんな店が日本の東京・世田谷の住宅地にある。全く思いも寄らぬことだ。


今回のバーガー
ランチ限定、メキシカンチーズバーガー1,300円。USビーフの赤身に和牛の脂を混ぜた150gパティにゴマだらけのバンズ。サルサ、ハラペーニョ、コリアンダー、モッツァレラチーズ。彩りあざやか。食べ口ドライ。炭酸飲料などでぜひグビグビ豪快に流し込みながら!

店長木村さん。高校時代は美術専攻というユニークな経歴の持ち主

shop data
所在地: 東京都世田谷区深沢3-4-1
アクセス: 東急電鉄 自由が丘駅歩20分
駐車場: 近隣コインPあり
TEL: 03-3703-9399
営業時間:
月~金: 12:00~15:00, 18:00~23:00(LO22:00)
土日祝: 12:00~15:00, 17:00~23:00(LO22:00)
定休日: 火曜日(祝日営業、要確認)

text: Yoshihide Matsubara photo: Yoshihide Matsubara, Gao Nishikawa

松原好秀 まつばら・よしひで
ハンバーガー探求家。アドバイザー。首都圏ハンバーガーショップのガイド本『THE BURGER MAP TOKYO』を昨年出版。国内唯一の評論家として活躍中。 http://www.hamburger.jp/

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