On The Street Burger "JUL 26 1985"  Homework's [東京・広尾]

 今から30年前、1985年7月。東京都渋谷区、広尾商店街の一角に日本で最初のハンバーガーレストランがオープンした。同年10月26日、米国カリフォルニア州でエメット・ブラウン博士がデロリアン号による時間旅行実験に成功するちょうど3ヶ月前の出来事である。

 ハンバーガー"レストラン"とは、卓上にフォークとナイフがきちんとセットされた、「食事」としてハンバーガーを楽しむことができる店のこと。「Homework's (ホームワークス)」がオープンするまで、都内でハンバーガーと言えば、ほぼチェーン店の安価なものしか食べられなかった。創業者・大木夫人は長きの米国生活より帰国した際、米国で生まれ育ったお嬢さんのために、日本でも向こうで食べていたようなおいしく健康的で心のこもった、家庭的なハンバーガーが食べられるようにと、自ら店を始める。まさに母なるやさしさに満ちた店だ。
 それが30年前。店はかなりな手間と費用をかけて造られた。厨房の鉄板・グリルをはじめ造り付けの冷蔵庫、店内の装飾一切、サイズから色から鉄板の厚みから、すべてがオーダーメイド。だから椅子ひとつ換えるにも似たものを探さねばならず大変という。ロゴの"天使"は当時小学生だったお嬢さんのデザイン。
 ハンバーガーはレギュラーメニュー9品。上下重ねず開いた状態でクレソンをひと添えして出すのが30年変わらぬ伝統のスタイル。近年必須のバーガー袋は無し。パティは豪州牛使用、110・150・220gのサイズ3種類。直火でしっかりグリルして芳ばしい牛のにおい。そこへ特注バンズのゴマの食感。自家製タルタルソース、チーズ、ピクルス、オニオン、すべての味がやさしく細やかに調和して、品のあるバーガー。今日食べて明日また食べたく思わせる――30年愛され続けるおいしさの秘密はまさにそこにある。

 30年の間に商店街は一変、変わらずやっている店の方が少なくなった。その変わらない店のひとつがここ。店名も同じなら場所も構えもそっくり同じ。1985年から旅してきたタイムトラベラーはそのあまりの変わりなさにきっと驚くに違いない。
 ただ一点の変化は、先年創業者が勇退され、NEXCO東日本のグループ会社でサービスエリアなどを管轄するネクセリア東日本が引き継いで運営に当たっていること。ハンバーガーの老舗と「道」は実はそんな形で繋がっている。そのまた先の道は果たしてどうなっているのか。よし、ハンバーガー号の目標時間を"2045年7月26日"にセットして……。

今回のバーガー
レギュラーパティ150gのベーコンバーガーにチェダーチーズのトッピング1,550円。ソースはタルタル。バンズはホワイトを選択。ふんわりとろけたチーズの下に良質で厚手なベーコン3枚。中までよく火が通ったパティが芳ばしく上品に香る。

1985年7月26日にオープンして今も変わらぬ広尾の本店。他に麻布十番、丸の内、品川に支店・姉妹店あり。

shop data
●広尾店
所在地: 東京都渋谷区広尾5-1-20 七星舎ビル1F
アクセス: 東京メトロ日比谷線 広尾駅歩3分
駐車場: 近隣コインPあり
TEL: 03-3444-4560
営業時間:
月~金: 11:00~21:00(LO20:30)
土曜日: 11:00~21:00(LO19:30)
日・祝: 11:00~18:00(LO17:30)
定休日: 無休(要確認)

text: Yoshihide Matsubara photo: Yoshihide Matsubara, Gao Nishikawa

松原好秀 まつばら・よしひで
ハンバーガー探求家。アドバイザー。首都圏ハンバーガーショップのガイド本『THE BURGER MAP TOKYO』を昨年出版。国内唯一の評論家として活躍中。 http://www.hamburger.jp/

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