"きょうもあしたの風に吹かれて"
古川さんが人生初にして現時点唯一の米国旅行を経験したのは6年前。池袋「Bar SORA(ソラ)」のマスター・竹河内(たけごうち)さんと古川さんは、フィリーチーズステーキの店を始めるべく、その本場フィラデルフィアをめざして3泊5日の東海岸弾丸ツアーを敢行した。 　ワシントンに着いた2人はフィラデルフィアでまず1泊。"PAT'S KING OF STEAKS"と"GENO'S STEAKS"、老舗2店の味に圧倒された後、さらにNYで2泊して"CORNER BISTRO"はじめハンバーガーの名店、"McSORLEY'S"ほか著名な酒場などを巡り、ダコタハウスにも足を延ばした。そして帰国後、フィリーステーキの夢はひとまず置いて、2人は建坪わずか3坪の小さなバーガースタンドを始める。店の名は「EAST VILLAGE(イーストビレッジ)」。1階は厨房のみ。席は2階に7席。飲み屋横丁入口の古い立ち食いそば屋を改装し、狭いながらも雰囲気のある、NYのアパートメントのような空間にリノベーションした。都内でも屈指の狭小店だ。 　メニューはハンバーガーのみ11品。鶏や魚のサンドなし。他店のような月替わりのバーガーも無い。狭さがそれを許さない。しかしおかげでいつも同じバーガー「しか」頼まない、決め撃ちでそれしか食べない客「の方が多い」と店長・古川さん。狭さは発明の母。手狭な厨房でも作業可能な手間と工夫の限りを尽くして、古川さんはこの小さな店を都内屈指の実力店に育て上げた。おいしさの決め手はトマトソース。イタリアンのキャリアを活かして作る特製ソースのコクと旨味は、今や店の顔とも呼ぶべき味わいだ。最たる工夫は付け合せのポテトとピクルス。ポテトは「ハッシュ」「マッシュ」「シューストリング」、自家製ピクルスは「きゅうり」「ミニトマト」「うずらの卵」と、それぞれ3種の盛り合わせで、ちょっと贅沢な気分が味わえる。そうした少しの手間とサービスを惜しまぬ姿勢こそ、この小さなバーガースタンドを有名たらしめる理由だろう。 　改装時に2メートル押し上げたという高天井に揺れる"ファン"の瞬きが心地好い、東池袋の小さなNY。壁のLPジャケットはボブ・ディランの"THE FREEWHEELIN'"。店名の由来であるイーストビレッジの近く、グリニッジビレッジの街並みが写る。♪答えは友よ、風の中……そしてふたりの夢は、今もフィラデルフィアに。 ★今回のバーガー ジャマイカンジャークバーガー1,375円。テリヤキだれで伸ばしたジャークペーストの辛味が脳天を直撃！ 豪州牛130gパティの下にパイナップル。上に乗るカシューナッツは米国産。純白のチーズを乗せたバーガーを天使とするなら、これは悪。中毒性200％、強烈なる甘辛味の邪悪のバーガー。