カリフォルニアの原風景『イン&アウト・バーガー』

 現在のアメリカ、特に僕が住んでいるカリフォルニアらしい景色って何だろう?と考えた時、すぐに頭に浮かんだのはカリフォルニア発祥のハンバーガーチェーン「イン&アウト・バーガー(英語表記ではIN-N-OUT BURGER)」。そして、そのドライブスルーだ。ロス在住のケニー中嶋がお届けするUSAコラム。

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 IN-N-OUT は、現在カリフォルニアを中心に300店舗以上をチェーン展開する大人気のハンバーガーショップ。冷凍ものは一切使わず、新鮮な食材のみでオーダーを受けてからその場で調理するハンバーガーとフライドポテトは、間違いなく美味しい。厳選された新鮮な食材を提供するために、海外はおろか全米展開すらしておらず、カリフォルニア以外ではネバダ、アリゾナ、ユタ、テキサス、オレゴン州のみということもあって、それ以外のエリアでの知名度は高くないと思うが、実は今年70周年を迎える老舗だ。ハンバーガー大国アメリカでは世界展開の大手チェーンの他、近年ではこだわりのグルメバーガーショップなども増えているが、カリフォルニアではやっぱりIN-N-OUTだ。抜群のクオリティとハンバーガー単品で$2.40-(2018年6月現在)という超リーズナブルな価格もあって、どの店舗も連日大賑わい。ドライブスルーに10台以上が並んでいることも珍しくない。屋外に待機した店員がインターホンよりも手前にできた長蛇の列を縫って、タブレットを片手にカーサイドでオーダーをとるのもお馴染みの光景。メニュー構成は極めてシンプルなのだが、パティの枚数増(有料)やら、バンズのかわりにレタス巻きにしたり、玉ねぎをグリルにしたり、野菜を増量したりという「シークレットメニュー」が多々あって、熱心に裏技の情報交換をするのもまた、ランチルームでの恒例行事だ。

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 まだドライブスルー文化黎明期の1948年に、創業者のハリー・スナイダーがロサンゼルス東部のボルドウィンパーク市にオープンした、100平方フィート(約3坪)の小さなハンバーガースタンドがIN-N-OUTの始まりだ。店内には飲食スペースはなく、開店当初から双方向通話のインターホンを用い、窓口で出来たてのハンバーガーを手渡す、いわゆるドライブスルー方式で、これはかのマクドナルドよりも30年ほど早い。ハリーは店の仕事が終わってから自宅のガレージで双方向通話が可能なインターホンを自作して、店舗手前に設置したのだという。店名の“IN-N-OUT”(単語の間に入るアンドの発音が「ン」のみなので“N”のみで表記) からして、「クルマで入ってすぐに出ていける」という意味をこめてのネーミング。まさに「ドライブスルーでハンバーガー」の原型を作った元祖といえるのだ。

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 創業時のショップはフリーウェイ建設によって移設したが、一号店跡地には当時を忠実に再現したレプリカ店舗が建てられ、見学可能だ。ショップ脇の「クロスド・パームツリー(交差した椰子の木)」は、70年代から店舗のアイコンとして取り入れられているが、これはスナイダーが好きだった映画「おかしな、おかしな、おかしな世界」をオマージュしたものだという。近くのスナイダー自宅跡地も1984年に“IN-N-OUT UNIVERSITY”(イン&アウト大学)」となり、顧客対応、品質維持、衛生等の向上など、各店舗のマネージャー教育の場として利用されている。そしてなにより、新鮮な食材をその場で作るという流儀は創業以来70年、頑なに守り続けられている。時代が変わっても「古き佳き時代」そのままに、今日も広く愛され続ける“IN-N-OUT”は、まさにカリフォルニアの原風景ともいうべき場所なのだ。

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 創業時のショップはフリーウェイ建設によって移設したが、一号店跡地には当時を忠実に再現したレプリカ店舗が建てられ、見学可能だ。ショップ脇の「クロスド・パームツリー(交差した椰子の木)」は、70年代から店舗のアイコンとして取り入れられているが、これはスナイダーが好きだった映画「おかしな、おかしな、おかしな世界」をオマージュしたものだという。近くのスナイダー自宅跡地も1984年に“IN-N-OUT UNIVERSITY”(イン&アウト大学)」となり、顧客対応、品質維持、衛生等の向上など、各店舗のマネージャー教育の場として利用されている。そしてなにより、新鮮な食材をその場で作るという流儀は創業以来70年、頑なに守り続けられている。時代が変わっても「古き佳き時代」そのままに、今日も広く愛され続ける“IN-N-OUT”は、まさにカリフォルニアの原風景ともいうべき場所なのだ。


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著者:ケニー中嶋
東京で生まれ欧州で幼少期を過ごし、現在は南カリフォルニアに在住。各地で目にした自転車からスペースシャトルまで、あらゆる乗り物への愛と好奇心を原動力に、今日も世界中を飛び回っている。

photo&text: Kenny Nakajima

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