ロサンゼルスにある世界的に有名な自動車博物館、Petersen Automotive Museum(ピーターセン自動車博物館)が『日本のものづくりのルーツ~日本の自動車製造業の創造性の精神~』と題した企画展示を開催中だ。トヨタ2000GTや日産のレーシングカーR382、ホンダN600やスバル360など、往年の名車がずらり展示されている。ここでいけが屋をアッと驚かせる出来事が!これらの展示車の真ん中に「R仕様・赤メタのケンメリ」と「ロングノーズ仕様のGX81クレスタ」という、まるで『暴走族』な車両が鎮座していたのだ!
ユーティリタス・いけが屋が、アメリカでの”BOSOZOKU”カルチャーを斬った。
近年、アメリカのクルマ好きの間で、”BOSOZOKU”という言葉が外来語として普通に通用するようになっている。そんなこともあり、日本のものづくりや自動車文化の象徴として、この2台が展示されたのだろう。日本の自動車博物館で、名車と『族車』が同じフロアに展示されることはまずないだろう。「ここはアメリカだから!」とやり過ごしてもいい。
だが、いけが屋は言いたい。「暴走族は社会悪であり、決して評価されるべき文化ではない!」と。
いけが屋の私見ではあるが、『暴走族』の起源は、血気盛んな若者の家庭や学校、社会に対する反抗の表現であり、それが暴走というかたちで反社会的行為になってしまったものだ。その先にあったのは、喧嘩やグループ同士の抗争、シンナーの吸引、そして繰り返される道交法違反…。文字通り「暴走」だった。80年代には『グラチャン族』とも呼ばれる暴走族が、レーシングカーを模した(つもりの)改造車を作ってレース場に集まった。彼らは入場拒否されると、東名高速のサービスエリアに集結、それを見物に来る若者も加わり、社会問題化した。90年代になると、大晦日から元日にかけ、富士の裾の河口湖に日本全国の暴走族が集結する『元旦・初日の出暴走』がニュースになった。中央道の八王子本線料金所や河口湖インターなどでは警察との衝突もあり、メンバーが本線上で自らの車両に放火・炎上させたり、一般人を巻き込む重大事故も発生した。
21世紀に入りすでに18年が経過、初日の出暴走も静かになり、暴走族は過去のものとなりつつあると感じていたいけが屋だが、ある時”BOSOZOKU"という言葉を目にすることになる。アメリカ、ロサンゼルスのクイーンメリーパークで開催されている日本製旧車のカーショー、“JAPANESE CLASSIC CAR SHOW”の会場でだ。
左ハンドルのセリカやクレシーダにワークスオバフェン(往年のレースカーを真似たオーバーフェンダー)を貼付け、竹ヤリマフラーを装備する。加工てっちん(太いタイヤを装着するために加工した鉄ホイール)を履き、ダミーオイルクーラー、北米ではラインナップのないフェンダーミラーも後付けしている。オーナーは夜ごと社会に迷惑をかける暴走を繰り返すわけではないし、派手で大きなパーツを取り付け、派手な塗装をし、日本語のステッカーやカッティングシートをボディーに貼る。わかりやすい日本の自動車文化を並行輸入してカスタムしたクルマたちだ。彼らにしてみれば、日本車の正しいカスタム手法だと判断したに違いない。
日本の旧車が世界的に認知され、トヨタ2000GTに1億円以上の値段が付いたと報じられるようになった頃、族車をインターネット上や渡米した際に、実際に目にするようになった。そして”BOSOZOKU"という見慣れない言葉を見聞きする機会が増えた。
日本でも、2000年前後に生まれた若者は、実際の暴走族を目にしたことがなく、雑誌やネット上で、見聞きした伝説をもとに、族車カスタムをアメリカンカスタムと融合する。彼らの暴走族観はアメリカ人の言う“BOSOZOKU”に近いものとなっているのだろう。
世代を超え、国境を超え、過去には社会悪であった暴走族が、今では自動車カスタム文化の一翼を担っているのだろうか。いや、待ってほしい。いつの時代も悪事は悪事である。決して賞賛されてはならないのだ。アンダーグラウンドはいつまでもアンダーグラウンドであるべきだし、だからこそかっこいいこともある。日米の自動車愛好家は皆、”BOSOZOKU”=”GANG”であることを理解し、決して博物館になど族車を鎮座させてはならないことを理解するべきだ。
米国・ロサンゼルスで開催されるJCCS(Japanese Classic Car Show)にもこの10年間顔を出し、米国の日本車事情に精通するいけが屋だが、幼少の頃は暴走族雑誌を愛読し(写真は筆者の蔵書)、日本の族車についても造詣が深い。そのいけが屋がアメリカでの”BOSOZOKU”カルチャーを斬った。
著者:池谷祐一(ユーティリタスいけが屋)
「クルマ好きが嵩じてクルマ屋になった!という典型的クルマバカなクルマ屋」を自称。クルマ好きな顧客の要望に合わせ、各種マニアックなクルマを取り扱うユーティリタスの代表。最も得意とするのは、スカイラインDR30、ランクル60など。
ユーティリタス
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photo&text: Yuichi Ikegaya
special thanks: japanesenostalgiccar.com