レーシングカーのボディといえば、カーボンファイバーやFRPが当たり前...。いやいや、ストックカーレースでは今だにスチールのボディが多用されているのだ。今回はそんなお話し。
NASCARの最高峰、ウインストンカップ(現スプリントカップ)が舞台、トム・クルーズ主演の映画"DAYS OF THUNDER"(90年)をご存知の読者も多いだろう。この作品でNASCARを知ったという人もいるのでは。レースやマシンのディテールまで丁寧に描いた作品ゆえ、NASCARに馴染みのない日本のレース好き、クルマ好きにとっては「なんだこれ?」と思わせる部分も多かった。今回はそのひとつ、ストックカーレースのボディの作り方について、現役NASCARドライバー尾形明紀に聞いた。
Q:NASCARでは伝統的にスチール製ボディが用いられていますね。
A:スプリントカップで2013年から使用されているマシン、ジェネレーション-6(Gen-6)ではカーボンファイバーなど、樹脂製のボディパネルが多用されるようになってきましたが、僕が走ってきたK&Nプロシリーズなど、多くのカテゴリーでは現在もスチールボディです。
Q:Gen-6以外のストックカーのボディは、全体がスチール製なんですか?
A:大部分はそうですが、ノーズやリアの一部が、車種ごとに統一された形状のFRP樹脂製、部分的にアルミも使われます。
Q:では製作は鈑金作業が主体ですね。
A:こっちでは鈑金職人をファブリケーターと呼び、複雑なボディパネルの形状を型紙やテンプレート(金属製の型)にあわせ、一台一台手作りしてゆきます。製作も修理も彼らの仕事です。
Q:全部が鈑金による成型なんですか?
A:成型済みのボディパネルも購入できますが、微調整は必要なので、ハンマーやベンディングマシン(イングリッシュホイール)を使って、丁寧に製作します。
Q:映画のレースカー製作風景で、マシンに無数の棒が刺さってるシーンがありましたが、あれは?
A:あの棒はクリコ(Cleco/Cleko)と呼ばれる、仮組みのためのツールです。パネルどうしや、パネルとフレームを仮留めし、溶接やリベット留めが完了したら取り外します。レースカーだけじゃなく、カスタムカーや航空機を作るのにも使われているようです。
Q:ファブリケーターの役割はどこまで?
A:ボディの鈑金製作のみです。ボンド/シムシーラー(いわゆるパテ)を使っての表面仕上げや、ペイント、ラッピングは彼らの仕事ではありません。
Q:ボディづくりには手間がかかっているんですね。
A:レースカーなのに今だに鉄のボディだし、派手なクラッシュが多くて大雑把に見えるNASCARですが、ボディ製作ひとつをとっても、すごく丁寧に精度を突き詰めながら行っています。鉄のボディは修理しながら長く使えるというメリットもあります。とは言え、効率重視はストックカーも同じ、ボディパネルを樹脂製にする傾向は下のカテゴリーにも波及していくようです。
一番上が「クリコ」と呼ばれる仮組み用のパーツと専用プライヤー。中段は樹脂製のテールパネルとスチール製ボディを仮留めしているところ。異素材どうしの接続にはリベットも使う。下はスチールパネルをクリコと強力マグネットを併用して仮組みしているところ。
上はテンプレート。カテゴリーや車種別にボディのサイズや形状がレギュレーションで厳格に管理されているので、ファブリケーターもテンプレートを使って丁寧に精密に製作を進める。下は水平な作業台に溶接で仮留めしながらボディづくりをしている様子。
尾形明紀とファブリケーターのボブ・ニューウィング。ストックカーのボディ製作を手がける"NEW FAB Race Car Bodies"代表。NASCARの他、ARCAレーシングシリーズのマシンも同様の製作方法。ノースカロライナには彼のようなファブリケーターがたくさんいる。
上はベンディングマシンとかイングリッシュホイールと呼ばれる、ボディの成型器具。ローラーに鉄板を挟み、手動でいろいろな方向に滑らせながら成型してゆく。下段はレーストラックの車検場の風景。出走前にテンプレートで各部の形状をチェックするのだ。