偶然の出会いからその魅力に憑かれ、一人のファンからレーシングドライバーに。
強い思いを持ち続けて夢を実現してきた彼の人生は、常にNASCARとともにある。
そんな尾形明紀の目から見て、NASCARとはどんなレースなのか。
そして、インタビューから垣間見えるNASCARの魅力とは？

「日本で偶然見つけたカラフルでカッコいいミニカーが出会いのきっかけでした。その時はそれがNASCARだと知らなかったのですが。」と話すのは現役NASCARドライバーの尾形明紀。
NASCARとは、"National Association for Stock Car Auto Racing"の略称で、アメリカで最も高い人気を誇るモータースポーツ、『ストックカーレース』を統括する中でも最大の団体の名称。
多くのアメリカ人は、ストックカーレースの総称としてもNASCARというワードを使っているという。
「新婚旅行で初めて行ったアメリカ、ロスの街では、NASCAR関連商品をたくさん見つけ人気の高さに驚きました。この魅力を日本に伝えたいと思い、相模原でミニカーショップを始めました。」
尾形はその後、ミニカーの買いつけをかねデイトナでNASCARを初観戦。その時の感想を「スピードと音、ファンの熱気を体感して完全にヤラレました。」と語る。
ミニカーの卸し先だった栃木県のレース場『ツインリンクもてぎ』でアメリカンスタイルのミジェットカーレースに出会い、「ここで経験を積みNASCARに出よう！」と参戦を開始。
ミジェットカーレースとはストックカーレースの入門カテゴリー。パイプフレームにサスペンション、エンジンを載せ、ボディパネルは最小限、多くの部分が露出している大きなゴーカートのような一人乗りのレーシングカーで、オーバル（楕円形）のコースを周回しスピードを競うもの。
もてぎでは、数年前までダート（未舗装）オーバルでミジェットカーレースが開催されていたのだ。
「ミジェットへの参戦にあたって、スポンサーのためにも本場同様に見た目のカッコよさにこだわっていました。」
日本でストックカーの基本を学び、2003年に渡米、NASCAR初参戦。
2010年には一念発起して拠点をノースカロライナに移す。
そして今、尾形明紀はプロドライバーとしてその中にいる。
「NASCARは、エキサイティングなエンターテイメント。毎レース10万人を超える観客が集まり、その前で迫力あるレースが繰り広げられる。最後まで勝敗がわからないレースなんて他にはなかなかないでしょう。」
すべてのレースは全米のお茶の間にライブ配信されており、トップドライバーは老若男女、レース好きに限らすその顔を知られるほどの国民的なスターで、CMはもちろん、映画やミュージックビデオに登場するほど。
NASCARは一丸となってファンを楽しませ大切にする努力をしている。ゆえにレースにスポンサーする企業も大衆から支持され、ファンはスポンサー企業のサービスや商品に親しみを持ち、消費行動にも直結するのだ。
エンターテイメントとビジネスがバランスすると、その影響力は絶大なものになるという好例だ。
「NASCARはファン、ドライバー、チーム、そしてスポンサーなど、関わるすべての人を幸せにしている。主催者はもちろん、ドライバーやチームはファンをどれだけ楽しませるか＝どれだけ応援してもらえるかを真剣に考え、行動している。ただハイスピードでオーバルをグルグル回って競争しているだけじゃないのです。僕はドライバーである前に、ひとりのNASCARファンです。だからここで走れることが嬉しい。ずっと続けていきたい。NASCARに関わる人は皆同じだと思います。」