スズキジムニーのカスタムで全国のフリークに絶大な人気を誇る『アピオ』。同社の創業者で現会長の尾上茂さんは、前身の『オノウエ自動車』時代から四駆を愛し、パリダカをはじめ海外ラリーにも出場、今も現役のラリードライバーだ。そんな尾上さんが私設の『ジムニー歴史館』をつくるという。このプロジェクトにかける思いを聞いた。
「アピオの近くに土地を手に入れました。駐車場付きのミュージアムを建てるのです。名称は『尾上茂、ジムニー歴史館』にしようと思っています。」と手描きの完成予想図を前に笑顔で話すのは、アピオの創業者で会長の尾上茂さん。周知の通りジムニーは軽自動車規格の四輪駆動車。昭和45年(1970年)の誕生以来モデルチェンジを重ねつつ、現在も生産が続いており、派生車種として普通車規格のシェラもラインナップ、諸外国への輸出実績も多い。降雪地域の質実剛健な実用車として、またその雰囲気と走行性能の高さから、四駆・クルマ好きからも支持され、旧モデルから現行まで、中古車でさえも高い価値を有することでも知られる。尾上さんは、競技を含む様々な経験をもとに、ジムニー専用のオリジナルパーツを企画・制作・販売。前身となるオノウエ自動車時代からジムニーの達人として著名な存在なのだ。
上の写真は、アピオの工場ではなく、プライベートでクルマをいじるための、尾上さん専用のガレージ。白い車両は、レストアがほぼ完成したという初期型LJ10型、360ccのスズキジムニー。45年以上前に作られたとは思えない新車同様の仕上がりだ。「傷んだ車両を2台用意して、いいとこ取りで組み立てました。このクルマからヒストリーが始まった。これも『ジムニー歴史館』の重要な展示車両です。」と笑う。
下の写真はラリーモンゴリア2016に参加した際のショット。国内競技はもちろん、海外ラリーの経験も豊富。パリ・ダカールラリーには1997年から9回にわたり出走、3回の完走を果たしている。自分でマシンを作って競技に参加、その経験を自社のオリジナルパーツづくりにフィードバックする。これがアピオの人気の秘密であり、ユーザーからの信頼の証でもあるのだ。
ジムニーとの馴れ初めは昭和56年、SJ30を購入したところから。カッコいいクルマだけれど、乗ってみると『もっと速く、乗り心地もよく…』と、いろいろ手を入れたくなったそう。当時は他にジムニーをいじるショップがなかったそうで、自身がチューンナップした愛車は、仲間うちでは敵なしの存在になった。顔見知りからの注文がはじまりで、ジムニーのカスタムが仕事になった。
「ある日、近所にあった大手部品メーカーの『ニッパツ』に、サスペンションを作って欲しいと直談判しました。最初は門前払いでしたが、通い詰めて仲良くなった営業所長の助けもあり、足回りをしなやかに、乗り心地良くするニッパツ製のジムニー専用テーパーリーフスプリングが完成。50台分があっという間に完売でした。」自らを図々しい性格だと語る尾上さんらしいエピソードだ。社名がアピオに変わり、尾上さんが会長になっても、パーツ開発コンセプトの根幹は『ユーザーの不満や不便を解消すること』に変わりない。それは、楽しくて愛着がわくアピオジムニーの『10年後を後悔しない選択』というキャッチフレーズにもにつながる。
下の写真は、貴重な歴代のジムニーをストックしている保管庫。長年所有している思い出深い車両や『歴史館』創設を期に譲り受けたものも。ご自宅の書斎(!)に鎮座するオレンジの車両は、かつて輸入販売していた輸出仕様の”SAMURAI”だ。
『尾上茂、ジムニー歴史館』の概要について、さらに伺った。
「120坪ほどの歴史館には、初期のLJ10型から最新モデルまで、ランニングコンディションの車両を20台以上収蔵、ジムニーの全てがわかるようにします。」
見せたいのは名車ジムニーの歴史であり、ファンに支えられてきたアピオのヒストリー。そして尾上さんご自身の歴史でもあるという。
「15年位前からあたためていたプロジェクトで、旧い車両をレストアしたり、少しずつ準備してきました。昨年『やります!』と公言してからは、ジムニークラブのメンバーを中心に協力者も増えています。」と嬉しそう。「ジムニーそのものが好き。運転が楽しいし、不思議なほど飽きることがない。その魅力を後世に伝えたいのです。」
車両の維持管理など、アピオとの協力関係は欠かせないが、歴史館の存在自体が、アピオのバックアップになれば、こんなに嬉しいことはないと言う尾上さん。ご自身が一番、そのオープンを待ち遠しく思っているのかも知れない。
text: Gao Nishikawa
尾上茂
昭和22年(1947年)神奈川県藤沢市生まれ。整備専門学校を卒業、ディーラー・整備工場勤務の後、44年に(有)尾上自動車を創業。牽引車として手に入れたジープで四駆に目覚める。ジムニー専門店となってからは、ジムニーやエスクードで海外ラリーにも参戦。「競技への参加は、いい商品を作るための最高のステージである。」がモットー。
右上の『ジムニー歴史館』完成予想図はご自身の手描き。「イメージは絵にした方が伝えやすいのです。」と尾上さん。
photo: Kazumasa Yamaoka, Gao Nishikawa
ラリー写真提供: APIO
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