"ハーレーに乗ることの楽しさ、そして安心・安全を提供している。" サンダンス エンタープライズ 柴﨑武彦

ハーレーダビッドソンに乗る者の多くにその名を知られているショップ、『サンダンス エンタープライズ』。
目立つのは強面なチューニングやカスタムだが、代表でエンジニアの柴﨑武彦さんが創業以来旨としているのは『楽しさ』と『安心・安全』の提供だという。柴﨑さんが開発したサスペンションを軸に、お話を伺った。

 90年代初頭、『サンダンス』の迫力あるカスタムハーレーに心惹かれた。’00年型のスポーツスターを手に入れて真っ先に訪ねたのが、当時東麻布にあったサンダンスだ。雑誌情報で頭でっかちなハーレー初心者には敷居が高かったが、代表の柴﨑武彦さんは拍子抜けするほどの笑顔で僕を迎えてくれた。
 ハーレーに関するあれこれを、わかり易く話してくれる中で意外だったのが「安心・安全に走ることが一番です。」という言葉。今思えば失礼な話だが、サンダンスがつくる豪快無比なカスタムバイクのイメージから、若かった僕は柴﨑さんを勝手に『命知らずな人物』だと思っていたからだ。
 それから17年、今回『より楽しく、より安心・安全に走ること』をテーマに掲げたサスペンションの開発について、あらためてお話を伺った。

 『楽しさ』と『安心・安全』を提供するために最も大切なのは、エンジンチューニングでもカスタムでもない、足回りだと柴﨑さんは言う。
「80年代から着目、その後のレース活動を通して、さらにその大切さを痛感しました。」
 いわゆる足回りとはタイヤ、ホイール、ブレーキ、サスペンションなどを指すが、サンダンスはタイヤ以外のほぼ全てを独自に開発、製品化している。サンダンスとしてアメリカでもレースに参戦してきた柴﨑さんは、自身がつくってきた数々のマシンやパーツとともに高い評価を受け、その愛称“ZAK”の名前とともに、ハーレー社さえも一目をおくエンジニアだ。加えて、自身がハーレーでアメリカ大陸を幾度となく横断するなど、現地の事情も知り尽くしている。当然ながら、その実績や経験も製品開発に反映されているのだ。
 「アメリカと日本とでは、ライダーの体格も道路環境も違う。アメリカ製のモーターサイクルがすべての日本のライダーにマッチするとは限らない。」
 柴﨑さんはそこに着目。試行錯誤を繰り返しながら生みだしたサスペンションが、“Traktek”(トラックテック)だ。
 語源はトラクション・テクノロジー。パートナーにはスプリングのニッパツ、ショックダンパーのKYB、オイルはモチュールと、その道の大手トップ企業が名を連ねる、まさに一流の布陣。
 しかし製品開発の途上で各社の担当者や技術者から『ここまでこだわる必要があるのでしょうか?』と言われることも。そんな時、柴﨑さんは「それがライダーの安心・安全につながるのなら、オーバークオリティでも、原価コストが高くなってもやりましょう!」と言ってきた。

 左上はフロントサスペンション取り付けの模様。柴﨑さん自身も工具を手に日々ハーレーに触れている。右上はトラックテックのフロントサスペンションを装着した筆者のスポーツスターに貼られたロゴ入りのステッカー。乗ってみてすぐにわかるブレーキング時の滑らかな沈み込みと戻り、安定志向のしなやかな乗り心地は、僕のような街乗り中心の使い方にもマッチする。

 柴﨑さんの信念と熱い思いが詰まったハーレー専用のフロントサスペンションは、ユーザーからも支持されて今や年間1,500セット以上をコンスタントに出荷しているという。

 サンダンスは今年、製品の販売に軸足を置いた別会社『サンダンス インタナショナル』を設立、代表には柴﨑さんの開発に対する思いを受け止めながら、製品を世界に広める役割を担う手島豊さん(右上)が就任。手島さんはかつてサンダンスが積極的にレースに参戦した際にも現場で柴﨑さんのん右腕を担った人物だ。

 バイク用品専門店『2りんかん』でもトラックテックブランド製品の販売がスタートしており、サンダンスの指導を受けたメカニックが取り付けも行っている。

 「より多くのライダーに、より楽しくより安心・安全なハーレーライフを楽しんで頂きたい。そのための新しい一歩だと思っています。」と柴﨑さんは笑顔で語ってくれた。


柴﨑武彦:

自動車のメカニックからハーレーダビッドソンのチューニング、カスタムの道へ。’82年に東京・高輪でサンダンスを創業。
カスタムやオリジナルパーツ開発の他、’88~’99年にはデイトナ遠征や鈴鹿8耐などレース活動も積極的に行う。カタチだけのカスタム、速いだけのチューニングを嫌い、ライダーが楽しく安心・安全に乗ることができるモーターサイクルをつくることに日夜心血を注いでいる。

KYBとのコラボレーションにより生まれたリアサスペンション。
コーナリングやブレーキング時を含めたあらゆるシーンで優れた接地性能を発揮する。乗り心地を犠牲にしないのも自慢だ。

サンダンスのショールームにはこれまでに柴﨑さんが手がけたマシンが並ぶ。#55は鈴鹿8耐に参戦した『デイトナ・ウェポンII』だ。

SUNDANCE ENTERPRISES INC.
東京都世田谷区上用賀5-24-9
営業時間:10:00~19:00
定休日:火・水曜日
03-5450-7720
http://www.sundance.co.jp

photo&text::Gao Nishikawa
取材協力:サンダンス エンタープライズ

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