2019年に誕生50周年の節目を迎えたフェアレディZ。この記念すべきタイミングに縁あって新旧フェアレディZに様々なカタチで触れ、新たにイラストも描いてきた本誌GAOニシカワ。vol.1に続き、日産自動車のグローバルデザインセンターを訪ね、現行モデルのフェアレディZ、Z34のデザインに携わった皆さんにお話を聞いた。
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「“Z-Ness”と“Newness”という考え方をベースにディスカッションを始めました。」と口火を切ったのは、同社グローバルデザイン本部、パーシブド クオリティ部の谷中譲治さん。前回のインタビューでも登場したこの2つのキーワードについて、今回は顔ぶれの違う皆さんに伺うことができた。
「“Z-Ness”とは、フェアレディZ誕生当時からの基本コンセプトです。スーパーカーではない気軽なスポーツカー、具体的に言えば乗降が容易で、荷室がしっかり確保されていて、高価過ぎない、などの要素を満たしながら、ドライブすることが楽しいクルマということになるでしょう。」
“Newness”についてはZ34のエクステリアデザインを担当したデザインリアライゼーション部チーフの原田英治さんが説明してくれた。
「新しさという意味で、クルマという機械に、研ぎ澄まされた有機的な魅力、色っぽさを与えようと考えました。 “Sensual Mechanism”(=官能的なメカニズム)をスタイリングのコンセプトにしました。」
2004年に行われたグローバルコンペティションでは、日本だけでなく世界中の日産のデザイナーが新しいZのためのスケッチを描いた。届いた約200案からエクステリアはアメリカ、インテリアは日本からのアイデアが選ばれ、これをベースにデザインを進めることになった。
上は、各国の拠点で働く日産のデザイナーが、Zに対する思いを込めて描いたエクステリアのスケッチだ。
主要マーケットであるアメリカをはじめ、海外の拠点ともコミュニケーションをとりつつ、日本のデザインセンターが主導するかたちでデザインを進めた。もちろん身体が大きい西洋人が乗ることに配慮しつつ。
上の写真、左から日産自動車 グローバルデザイン本部/第一プロダクトデザイン部の岡澤健二さん、同デザインリアライゼーション部チーフの原田英治さん、パーシブド クオリティ部シニアスタッフの谷中譲治さん。右端は筆者GAOニシカワ。
「翌年からクレイモデルを製作、時間をかけてデザインを検討しました。デジタル化が進む中で、データでは作れないデザインとは何かを考え、それをクレイモデラーに丁寧に伝えながらデザインを作り上げていきました。アスリートの筋肉のつながり方から、スプリングバックなど鉄板のプレスの特性までも考えながらカタチを作っていきました。」と原田さん。
ドライなデザインだったZ33に対して、ボディの量感を意識してマッシブ(=筋肉質)なスタイルを追求したかったと谷中さん。
「幅が30mm広く、ホイールベースは100mm短くなる。逞しいけれどボテッとしないよう苦心してバランスをとりました。ドアミラー越しに見えるリアフェンダーの存在感、外から見たときにドライバーがかっこよく見えるウエストラインにもこだわりました。」
一方、初代フェアレディZ、S30から受け継いだものも多い。FRスポーツらしいシルエットやラジエーターグリルの開き方、フロントミッドシップのレイアウト、ホイールベースの中央よりも後ろ寄りに座るポジションなどなど。
「ウインドウグラフィックもZらしいところです。」と原田さん。ドライバー・オリエンテッドなインテリアを目指したと話してくれたのは、デザインを担当した第一プロダクトデザイン部の岡澤健二さん。
「ダッシュボード中央の3連メーターをはじめ『Zに乗っていること』をドライバーに意識させたかった。タイトなコクピットの包まれ感は、安心感につながります。ドライバーの視界にボンネットがしっかり見えること、いっぽうでゴルフバッグが積めることにも気を配りました。」
「日産のアイデンティティを大切にしながらも、『これがZである』という主張あるデザインにしたかった。そういう意味で、やりたいことをやり切れたプロジェクトだったと思っています。」と谷中さんは振り返る。ヘッドランプやリアのコンビネーションランプのブーメラン形状が、その後のスポーティな日産車のアイデンティティになっていったというのも興味深いエピソードだ。
グラマラスなエクステリアと3連メーターを配したインテリアが描かれた最終スケッチ。
「後端がキックバックしたサイドウィンドウは、S30にも見られたZらしいグラフィック。クルマを長く伸びやかに見せる効果があります。」とイメージ画像を前に説明してくださった谷中さん。
人の温もりが感じられる美しい面で構成されたボディライン。ボリュームたっぷりのリアフェンダーがセクシーだ。ドライバーの真正面に配置された大きなタコメーターや、ダッシュボード中央の3連メーターが、スポーツカーに乗ってることを強く意識させてくれる。
EVや自動運転技術の進化、そして自動車を取り巻く環境も劇的に変化している時代にあって、これからのスポーツカーのカタチとはどういったものになってゆくのだろうか。
最後に『スポーツカーの未来』について皆さんに聞いてみると、『スポーツカーはなくならないと思います!』と口を揃えた。
「確かに日米は成熟市場ですが、アジアやアフリカなど、これからが熱いマーケットがあります。それに速く走りたいという人の欲求は変わらない。パワーユニットは変わったとしても『やっぱりスポーツカーはこうじゃないと!』という感覚は受け継がれてゆくものだと思います。」と谷中さん。
巷ではフェアレディZのフルモデルチェンジに関する期待も聞こえてくる。日産がどんなスポーツカーの未来を提示してくれるのかを、楽しみに待ちたいと思う。
関連記事:日産フェアレディZ、そのデザインの現場を訪ねる。vol.1はこちらから
<お話を伺った皆さんのご紹介>
岡澤健二さん
グローバルデザイン本部/第一プロダクトデザイン部
「古典的なロングノーズ/ショートデッキのスポーツカーが好きです。」と言う岡澤さんは、Z32とZ33の所有歴あり。Z34のインテリアデザインに携われることになったときは、テンションもモチベーションも上がったという。
現在はインフィニティを担当。
原田英治さん
グローバルデザイン本部/デザインリアライゼーション部チーフ
「若い頃、Z32を見てカエルっぽいな~と思っていました。」という原田さんが、クルマのデザインを深く知り興味を持ったのは専門学校時代。「いつの時代もZは他に比べるものがないオリジナリティがある。そこがZらしいところですね。」
他に現行エクストレイルのデザインも担当。
谷中譲治さん
グローバルデザイン本部/パーシブド クオリティ部シニアスタッフ
「父がフェアレディSPに乗っていたこともあり、フェアレディは身近で特別な存在でした。S30もカッコいいと思っていました。」Z33を作っている頃に入社したという谷中さん。「Z33をライバルと位置づけながらZ34のデザインを考えていました。」
Z34開発当時は、プロダクトデザイン部でエクステリアデザインを担当。
Photo: 日産自動車株式会社グローバルデザイン本部/Gao Nishikawa
text: Gao Nishikawa
取材協力: 日産自動車株式会社 グローバルデザイン本部